令和7年にサマポケをやる男
私は立ち止まらないよ
私は水たまりの絶えない路地を歩いていく
五百年前に造られた長い回廊を
読んでいる本のページの上を
居眠りしている自分自身を歩いていくよ——谷川俊太郎「トロムソコラージュ」
感想記事です。ほとんどネタバレありの内容しか書けない気がするけど、広くプレイするかアニメ観るかしてもらいたいのと、あまりに感情が揺さぶられたので吐き出す場所として。
Twitterでタグ付けて実況したのをTogetterにまとめたようなものと思ってもらえば。
しばらくネタバレないです。あるときは言います。
出会いと紆余曲折
- フォロワーからの薦めで2020年8月末にSwitch版(無印)を買う。
- 同年9月末に蒼ルートをクリア、つらすぎて4年半放置する。
- 2025年1月、アニメ化の報を受けて1月末にPC版Reflection Blueを買う。
- 2025年3月6日にクリア。
- この記事を書きたくてブログをリプレースする(記事1、記事2)
やる気(?)のほどが伝われば幸いです。正直最初にやったときはこんなにハマるとは思っていなかった。
ヒロインがかわいそうな目に遭うのがつらかったし、蒼ルートの内容からシナリオの根幹部分は概ね明かされたものと勘違いしてしまったのもある。全然そんなことなかったです。
書くならちゃんと書くか……と思ってやり直しながら書いてたら普通にアニメ放送開始までに間に合わなくなった。
いいところ
とにかくプレイしてよかった、という感想に尽きます。好きじゃない部分もありますがそれを話し始めるとネタバレ要素に触れざるを得ないので後回しに。
ヒロインの魅力全員かわいい。シナリオの合う合わないはあれどヒロインに関しては全員好きになりました。こういうゲームだと強めの性格が与えられてちょっと鼻についてしまうのがあるあるなんだけど、それが全くなかったです。しいて言うなら蒼がエロすぎるくらい。
あとは泣きゲーという触れ込みではあるんだけどギャグ要素も強めで、ヒロイン全員おもしれー女です。おもしれー男もいます。
主人公の魅力絵の女は絵の男(あるいは女)と恋愛するべきと思っているので(?)、ギャルゲーでも無個性主人公よりは一人の人間として自我を持っている方が好みです。
その点で本作の主人公の羽依里くんは非常によかったと思います。適度に感情移入できるし、後半は素直に応援していました。
テーマ夏の原風景。とにかくこれを全力で体験させてきます。
無印部分でも相当な量なのに、Reflection Blueでは無印で取りこぼしたものがこれでもかと詰め込まれていて凄まじい物量になっています。
他のテーマについてはプレイ中に段々わかってくるんですが、年取ってから沁みてくるタイプのシナリオとだけ書いておきます。
やりこみちょっと分岐が多すぎる。これは人によってはデメリットかもしれないけど、ハマると何周もプレイすることになるので、その度にまだ知らない展開、聞いたことのないセリフに出くわすのは素直に嬉しい。
この記事を書いている段階で実績の達成率は58%です。まだ味する。
音楽これまでプレイしてきたゲームの中で一、二を争うくらいに良い。散歩しているときに主題歌を口ずさんで泣いたりする。
BGMも印象に残るものが多く、特にbermei.inazawa編曲のものが抜群。
欲を言えばどの場面でどの曲が流れているのか覚えていたいので曲名出てくる機能とか欲しかった。
Switch版にはあった気がするんだけど今見たらなかったので幻覚かも。
主題歌の動画とかをYouTubeに見に行くと関連動画のサムネでネタバレしてくる異常者がいるのでやめときましょう。最悪インターネット
なんと曲聴くだけならSpotifyで可能!
自分は仕事中にサントラを2周くらいしている。(サントラの曲はネタバレを含むので気を付けてください)
無印 or Reflection Blue?
Reflection Blue(以下RB)は無印のメインヒロイン4人から3人増えて7人になり、さらにうみルート(年齢的に攻略対象と言いたくないので公式はこういう言い回しをしているとどこかで見かけました)や追加シナリオなどがあります。
今からプレイするならReflection Blue一択です。
攻略順
プレイ時蒼→うみ→のみき→紬→静久→識→鴎→しろは→グランドルート
いくつか些細な問題はあったけど全体としてはかなり理想に近い順番だったのかなと思う。
初見でベストな体験をするためにどうすればいいかを考えます。
- 蒼はゲーム全体のネタバレ・種明かし的な部分があるというのは既プレイ者の共通認識っぽいですが、あまりそうは思わないし、無印ヒロイン4名に関してはほぼ順不同でいいのかなと思っています。好きな子を最後に据えよう!
- 紬と静久は仲良しでシナリオ同士も密接に関連しているので連続して読んだ方がいいです。静久からプレイしてもなんとかなる気はするけど普通は紬からかな。全体としては独立しているのでどこでやってもよさそう。
- うみは前半の方にしかルートに入れないので注意。セーブしておいてグランド直前に、みたいな意見も見かけたけど自分は素直に最初の方にやった方が良いと思っている。
- 若干のネタバレ:鴎は蒼の後にやると混乱するので最初がいいかも。シナリオの独立性は高い。
- 深刻なネタバレ:識は難しい。別に自分のプレイ順でも大丈夫だけど、しろは・蒼・紬・鴎のルートの内容を含み、特にしろはについては仕掛けのネタバレになるためしろはが先の方がよさげに思う。
自分がおすすめするなら鴎→うみ→のみき→蒼→しろは→紬→静久→識→グランド、とかなのかなあと思います。
アニメはPV見る限り鴎→紬→蒼→しろはっぽく、制作の意図する順番ともある程度合致するのかなと。
ただ自分は紬と静久のシナリオで一気に引き込まれたので最初の方に味わってほしい気持ちもある。しろはを最後に持ってきておくと再プレイが楽しみになるし、難しい。。。
ここまで書いておいて何なんだけど、明らかに複数回のプレイを前提にしたシナリオ構成になっているので、どの順番でやっても2周目に入れば新しい発見が必ずある、はず。
そういう意味ではやっぱりあまり気にしすぎなくてもよいのかもしれない。初見でモヤっとした部分もやり返すと納得出来たりもするので、上に書いたネタバレが絡む順番検討は優先度低めかもです。
まとめ
私は立ち止まれないよ
それは不快なことではありませぬ
疲れることはままあるけれど
万物は流転するのが筋だから言い訳はしない
おかげで会えるからね
あなたに会える 君に会える
あのひとに会える——谷川俊太郎「トロムソコラージュ」
「トロムソコラージュ」は通して読むと全然Summer Pocketsの内容と関連のない旅の途中に書かれた長文詩なんだけど、部分を抜き出すとかなり主題歌のアルカテイルと近いと思って引用してみた。
旅をするように夏を歩いて、彼女たちと出会って、忘れがたい思い出を抱いて、また次の夏へ。そういう体験ができるゲームです。これを読んでいる人とそれが共有出来たら嬉しい。
ここからネタバレあり
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プレイしてから来てね
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プレイした?
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個別ルート感想
プレイ順。初見時の感想を思い出しながら書いてる部分ときっちり読み直しながら書いている部分がごちゃ混ぜなので読みの精度もブレブレです。
あとはプレイ中に考えたこと(考察って言いたくない)とかBGMの話とかも一緒くたに書いてます。
目次に名前出てこないように一応グランドルートと書いてあるけど、普通に別のところでそのルート名や内容に触れたりもするので注意。
蒼
わたしは白い寢床のなかで眼をさましてゐる。
しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとする——萩原朔太郎「蝶を夢む」
明るいエッチなお姉さんだなと思って最初に攻略しに行った記憶がある。明らかにメイン扱いされているしろはを除くと最初に出会うヒロインでもあったし。高森奈津美すき。
やってみたら書いた通り悲しくなって手が付かなくなってしまったけど。2020年と今年とで2回やった訳だけど2回ともつらかった。
蝶関連の設定開示が多く、一般的な「夏っぽい」テーマからは一番離れていたように思う。ただ一番等身大の恋愛をしたのも蒼かな。
チョロさはあれど、お互い徐々に好きになっていく過程とかがしっかり描かれていてよかったし、これも夏の一側面かも。
これは蒼に限らず全ヒロイン共通なんだけど他ルートで蒼が出てくると嬉しくなるし、特に蝶関連で困ってるとき出てきてくれると安心する。これは一人目に蒼を選ぶ明確なメリットかな。
ルート外のコメディ要素強めの蒼も好きなんだけど(「ちょっとあたしがエッチな雰囲気にしてくるわ」「穢れが過ぎるわよ!」etc…)、その分ルート内の「あたしがいるのにそういうの見ちゃうんだ~?」「惚れちゃった?」も爆発力高くて可愛い。べた惚れです。
シナリオの問題点として、このルートの印象があまりに強かったせいで以降のプレイでずっと蝶に対して悪印象を持ってしまった。本当は純粋な記憶のはずなんだけど、蒼ルートではその負の側面が強調されすぎてるし危害を受けすぎていたように思う。
ラストの蒼の思いが溢れるシーンで払拭されたかというと自分はそこまでだった。Cパート(Lasting Momentなどエンディングテーマ後のパートのことを以降こう書きます)までやってようやくプラマイゼロといった印象。とはいえCパートの嬉しさは半端じゃなかったのは確かだけど。
本当は数字のように合計するんじゃなくて、色々なことがある中で心に焼き付いた感動=眩しさを抱いて進んでいくべきだとは思う。この境地に至ったのはプレイし終わってからかなり後のことだけど。。。
個別BGM「Other side Blue」は曲調明るいのに対して曲名がちょっとそぐわない感じがする。
夜の山で出会う雰囲気の違う蒼のことを指しているのならわかるけど、そちらでは個別BGMは流れないし。
青じゃなくて蒼、くらいのダジャレっぽい意味だったりする? 対して藍版のアレンジが「Deep Blue Blue」なのはわかりやすい。
プレイしたときはBGMまわりの仕掛け(曲名とかアレンジ)にまだ意識的になっていなかったので、藍のBGMが蒼のアレンジなのも気付いてなかったかも。
そこを気にするって記憶だけ持ち越して初見プレイしたさある。
あとは後半の重い展開の中でも藍との軽妙なやりとりには救われたかな。もうちょっと藍とのエピソード読みたい気持ちがある。
うみ
この時点で残りのルート順だけ既プレイのフォロワーに決めてもらってたのだけど、やっぱり何となくこの先を見たくなくて、逃避してしばらく島モンで遊んだりしてた。
そしたら不意にうみちゃんルートが始まったのでかなり運命を感じた。
初見時の感想だけど、やり終わってしばらくは「なんで前半がこのテーマなんだ?」となっていた。大人と子供の対立。全部終わってからみれば必然性は明らかなんだけど。
あとこの段階では普通にうみちゃんとイチャイチャしたかった。いや十分してたけどかなり親子のそれだったので。
うみちゃんが不穏な居なくなり方をしている、Cパートがない、などエンディングにちゃんと違和感があった。
これもALKA前にプレイしておくといいと思う理由の一つで、いいフックになってくれた。
前半でしか入れないのもグランドまで間空いていい具合に忘れるからじゃないかなという気もするし。
ALKA後に内容を思い出して振り返ると、これは”夏”の最初の方で羽依里と和解したときのエピソードなんじゃないかなと考えていた。
エンディングで風に消えた台詞も後から想像ができるようになってるのが憎い。
これが”夏”のはじまりと考えると何が納得できるかって、うみちゃんが結構寄り道しているところ。
この辺ALKAとかでどう説明されてたか覚えてないんだけど、鷹原さん状態のときは島モン、島ポンとかで遊んでる印象が結構強いのよな。
実は最終日まで夏休みの宿題を取っておくタイプなのかもしれない。
この文章を書いているときに思いついたこととしては、紬と静久が完全に相補的になっているように、うみルートもグランドルートと対になるようになっているんじゃないかということ。
うみルートは”夏”の始まり、ALKAは”夏”の終わりみたいな。
そう思ってALKAと対になっていることを意識してやり直してみたらさらっと完全に同じセリフも出てきて死ぬほど衝撃を受けた。
そうそう、羽依里が子供のようにうみに慰められるシーンとPocketの状況も親子の転倒という点で共通している。
RBでの追加シナリオはかなり意識的に無印と対になること・同じことをやっている印象。
欲を言えばALKA後にCパートが追加されたりしたら嬉しかったかも。流石にスタッフに高望みしすぎ?
あとは羽依里の抱える問題が完全に解決されてるのも良い。「休憩は終わりですね」のところ好き。
今思うと羽依里の姿を見てうみちゃんも母親と向き合うことを決意したのかな、などと思った。
個別BGMのタイトル、他の七人は色名がつけられているのに対しうみちゃんは「Piece of Clear」なの、本当さあ……という気持ち。曲名見るだけで涙腺に来るくらい名付けがうまい。
このルートでしか流れない(?)こともあって、うみちゃんの体験した”夏”のうちのひとつ、というイメージ。
今聴き直してみるとALKAルートで流れるTwinkle of Alcorとメロディが近い? 作曲の人一緒だしこれも意識的かも。
のみき
これも家族の話なんだよな。へじゃぷ。
とはいえ終わってみれば似たようなテーマの話が繰り返されることには納得はいく。
家族、友達、記憶、限りある夏。
先にシナリオの好きじゃない部分を書くと、どうしても不思議要素の後付け感が強く感じられてしまう点。これは静久に関しても同様。
のみきと夜の食堂で家族についての会話をするシーンは無印からあったっぽいけど、それを思い込みとする辺りも強引さを感じないでもない。
やっぱりやってる途中は夜の世界が完全に謎で不安すぎるし、どうしても蝶が出てくると舌打ちしてしまう(蝶アンチ)。
結局のみきの蝶が見せている夢ということで決着するのだけど、各ルートで蝶自体が抱く性質とか内容がバラバラでめちゃくちゃ混乱するのはあった。
あと蒼ルートの「負の記憶」の印象が強すぎるので。
後から蒼ルートを読み直したときの説明を踏まえると、特別な家系の人たち以外は
①臨死体験時に、②強い思いがきっかけになって、蝶を出す能力を獲得してしまっている印象。
島という場所とお盆周辺という時期が重なって生と死の境界が揺らいでいるとかそんな感じの設定がありそうに思う。
色々書いたけど、後から膨らませてルート1本分にするのは静久・識と比較して大変だっただろうし、演出とか何だかんだ凝ってて楽しめはした。
内容もちょっと触れづらいくらい恥ずかしいラブコメで懐かしさを感じた。
蒼がルートの大分最初の方から応援してくれるのも好き。ふたりとも描写がエロい。
家族部分に関してはやっぱりシンプルに放送塔のシーンが感動した。あれを聞いた辺りからふつふつと島に行きたい気持ちが出てきたように思う。
逆にCパートはちょっと蛇足というかダメ押し感があったかも。とはいえ全体的にハッピーに終わるシナリオなのは大変良かった。
全然関係ないんだけど(?)、塔から抱き合って落ちるシーンは素晴らしき日々を思い出した。
今となっては内容覚えておらず、手元にある10周年記念版を開封したくなった。
ところでサマポケ作中の年代設定から考えると、古いギャルゲー・エロゲーあるあるを意識的に織り交ぜている可能性はあるのかもしれない。
個別BGM「Splash Green」は正直あまり印象に残ってないかも。Other side Blueと同じ感じで、BGM然としているというか。
のみきについては「振り返らなくてもヤツはいる」の印象が強すぎるのはある。
紬
だけど僕は彼女に静かにささやいて
バラのリボンをそよそよと揺すると
彼女はまどろみから目を覚ました——クロプシュトック「バラのリボン」
一番好きなシナリオ。
まずこの順番でやったときに全員出てくる初めてのシナリオだった(気がする)。鴎と静久が結構レアキャラみたいなところある。
全員で夏休みを楽しんでいる感じ。しろはも自分のルート外だとあんまり出てきてくれないし……。
ということで結構プレイしていて感慨深かった。欲を言えばうみちゃんも出てきてほしかったけど。
他にはルート入る前後の糖度の高さも好き。
「早く味を決めれば、早く2人きりになれると思いまして」「まあ……嬉しいんですけどね……」あたりとか。
その分落差が険しく感じるのはまんまと踊らされている感があるけれど。
あと羽依里が仕事をしているところ。
このシナリオの中では夏休みを「無限のように感じられるけど短い」と繰り返し表現しているけれど、それを全部あげると言ってのけたのはプロポーズに他ならないのではないかなと。人生のメタファー。
その後も真正面から告白するし、本当に全部のイベントをやるしでかなり主人公している。
とりあえずこのゲームで一番好きな文章だけ載せておきます。
今日みたいな暑い日に。
波の音を聞いた時に。
小さな水しぶきの中に虹を発見した時に。
世界に誰もいないって錯覚した時に。
そんなふとした瞬間に、今日の事を思い出すかもしれない。
イチャイチャ以外の部分について、各ヒロインには(この段階で保留されているうみちゃん以外)それぞれが抱える不思議現象=シナリオ上の大ネタ部分があるのだけれど、それの提示の仕方も紬ルートが一番好みだった。
夏鳥の儀と不在期間を重ねるなど程よくミスリードを交えつつ、すぐに新情報を出して撤回してくれるところとか、概ね察せるくらいに情報を提示しておくけどラストのCGまで明言はしないところとか。
CGが表示されて理解した人とかいたら感想聞いてみたいけど、流石にお泊り以降はヒントが多すぎるしいないかな……?
自分はツムギとの会話が終わるあたりでオートセーブ遡って読み返して気付いた。こういう能動的なノベルゲーム体験をしていたい。
この夏に加藤家の遺品整理に来ることに意味を持たせているのもいい。
もちろん他のルートでもそうでないといけない理由がちゃんとあるんだけど、他ではタイムリミット的な使われ方をするのに対して、紬ルートでは血縁から来る運命的なものを感じるのが毛色違って好みだった。
加藤のおばあちゃんに触れているルートは唯一だったかも?
エンディングからCパートにかけての流れとか救われ方も完璧だった。
紬の歌が島の女の子に歌い継がれているところなんかは形は変われどトイ・ストーリー3のラストを思い出す構図で、普遍的な感動があったように思う。
歌もおもちゃもぬいぐるみも人の記憶に寄り添うものだなあと。一人でむぎゅむぎゅ言っている羽依里くんはかなりギャグとかホラーだったけど。
Cパートは本当に言うことがない。
世間的にはご都合主義と評価されているのかもしれないけれど、鼻唄をきっちり覚えてプレイ中ずっと一緒に歌っていた自分からすると本当に報われた気分になった。こっちのがホラーか。
ここまで書いていてようやく紬と鴎は思いが形を取るという点で同じ現象だったと納得した。
鴎だけ明確に蝶を意識させるので、そちらに気を取られて初見の時は認識していなかった。蝶は非実体だけど紬には実体があるのが違いかな。
目の前でいなくなる部分の演出も、本来なら風が吹く→一瞬蝶が見える→いなくなるとなってよさそうなもので、それをせず代わりに体重が軽いという描写を複数回入れてきているのは制作がそこを区別して考えているからなのかなと。
何でそういうことが起こるのかは結局謎なんだけど、まあそういうことが起こる場所であり季節なんだと思うことにしている。
「Golden Hours」は個別BGMを初めて意識した一曲かもしれない。
本当にずっと流れているし、3人で遊んでいる風景が目に浮かぶ。
3人だから三拍子なのか!?(書きながら気付いた驚きを伝えたい)
静久
一番好きなシナリオ。
いや、最初にやったときは気に食わない部分もあったんだけど、加点部分が飛びぬけていたので。
あとはこれを書くにあたって再プレイしたところ不満点はほとんど解消されて、今は静久ルートがサマポケの全てなんじゃないかとすら思っている。
あ、一応軽めに触れておくとBGMの「Tender Purple」は「Golden Hours」と同じ3拍子ですね。
初対面の時やキスシーンなど、夜の印象が強い。紬と静久の個別BGMだけが3拍子。(White Lonelinessは6/8ということにしておいてください)
さて、初見時に感じた不満点としては以下。
- 若干毒親のテーマに不快感がある、ドラマの付け足しに思えてしまう
- 記憶喪失の設定も同様に付け足しっぽい、最終的に自己暗示という形で決着したように見えてしまうのでなおさら
- トゥルー選択肢で何故別れなければならないのか、バッドもそんなに悪くないのでは
再プレイしてわかったことを自分が納得するために書いていく。
1点目について、これはALKAで言及されるうみちゃんと父親の親子仲のテーマのリフレインなので必然性が確かにあった。周回しないとわからないところではある。
2点目は読んでても「自己暗示で記憶を消していたはずなのに蝶の演出と祠でのフラッシュバックがあったのは何故?」という点に解決が与えられないからで、これは種明かしされていない以上どうしようもない気はする。
一応「元々記憶は忘れがちだったけど、蝶の形を取るようになったのは高熱を出した後から」「ミケネコが記憶を運んで行ったのか、自分から蝶の形で記憶を出していたのかはあやふや」くらいの説明はつくんだろうか。
のみきと同じ症状、と結び付けられれば理解しやすいのかも。また、何でこの設定になったのかはシナリオ後半で直接的に言及されていた通り、忘れられたい羽依里、忘れられたくない紬、忘れてしまう静久の対比をつくるためだと思う。
3点目は完全に読解力不足。
まず8/20、2回目の結婚式の日に紬は「無理しないでくださいね」、羽依里は「向かい合うだけが正解じゃない」と発言し、それに対する静久の反応は「傷つく前に私を甘やかさないで」。これはトゥルーに進行したときも押さえ直される。
2人の世界に閉じこもり共依存するこのルートでは、たぶん2人は紬のことを忘れてしまうので、そういう意味だとバッドなんだと思う。
トゥルーで何故別れなければならないのかというとそれがちょうどいい距離感だから。
これもしろはと静久、母親と静久の関係を丁寧に描写しているので覚えていれば納得できるはず。いや、自分はその前の紬とのシーンがピークに感じてしまって完全に忘れてたんだけど……。
あとはセーブ・ロードが出来ない特殊な選択肢ということもあって若干ストレスには感じていたと思う。初見でトゥルー側選んでしまったので確信が持てないまま進んでしまった。
それらとは別に、不満というほどでもないが気になっているのが「ずーっと、放置されてたから……もう死んじゃったのね」という蒼の意味深な発言。
文脈的には放置されていたのはご神体のはずだが、後半がよくわからない。蝶は死なないはずだし。
記憶を吸ってくれていた神様的存在が死んだから、触れただけで記憶が戻ってきたということ?
ただそれだと、空門の神事以外の蝶を溜め込める別の手段があって、それを蒼が認知していたことになり、ちょっとちぐはぐに感じてしまう。ニュアンスだけ拾っておけばいいのかなあ。
あとはここからの感想もそうなんだけど、紬の別ルートとして好きなのであって、静久ルートとしてはそうでもないのでは?みたいな罪悪感を初見時から感じなくもなかった。
プレイし直してみると、静久が主人公の紬ルートという側面も明確にあるなと思い直して今は納得している。
不自然に静久に一人称視点が移る点や、羽依里が紬に救われたように静久が紬に救われるところなど。
いいところを書く。まず、あらゆる部分で紬ルートと対になることを意識して書かれている。
最初の方はずっと静久と2人で進むので、流石にハードルが高かったか、でも期待していたんだけどな……と思いながら進めていたんだけど4日目くらいにちゃんと出てきてくれて、そこからはこちらの期待を軽々と飛び越えてきてくれた。
特に緻密だったのが灯台での結婚式。
全てを先取りした紬ルートでもやっていなかったイベント、1回目の結婚式での「お友達の結婚式に出るのが夢だったんです」という発言、BGMはインスト版の「紬の夏休み」でその原曲はドイツ民謡の「小鳥の結婚式」……流れた瞬間に曲名が思い出されて嗚咽が止まらなくなって数十分中断してた。
最初からこんな仕掛けを仕込んでたのならファンディスクまで取っておこうと思えるのが凄いし、後付けならヤバすぎる。
Cパートの最終CGもダメ押し。ここだけで余裕で120点ある。
他にも光を失った灯台と寂れてしまった海の家、紬に言われて救われたのと同じ言葉を静久にかける羽依里、静久がしてくれたことを返そうとする2人、と対比になっている部分を挙げていくとキリがない。
それ以外にも、手紙から感じられる無償の愛、「ばいばい」、全てが良かった。特に紬の夏休み観はゲーム全体を総括するものになっていたと思う。プロローグで印象的だった傷ついた二羽の鳥で締めるのも芸術点高い。
このまま書いていくと本当に終わらないので、一番あからさまで、だからこそ一番心を掴まれる部分を引いて終わりにしておきます。
静久「紬は……私にとって、夏休みそのものだったな……って思うの」
紬「でも、シズクは……夏休みみたいですね」
識
めちゃくちゃ好きなのに救いがなくてつらい。
蒼ルートとほぼほぼ同じ読後感。プラスがマイナスになってギリギリゼロくらいで終わるのも一緒。Cパートある分蒼の方がマシか……?
構造の話をすると、予言の巫女(しろは)、七影蝶と山の祭事(蒼)、神隠し(紬)・海賊(鴎)といった伝承(lore)をすべてむすび直して夏鳥の儀にするシナリオ。
鬼要素は鳥白島のモデルの一つになった香川県女木島の鬼ヶ島伝説から来ている。
識が島の人たちと羽依里をむすび、ひいては現実の島とプレイヤーをむすぶ。
大体紬・静久ルートをやった後くらいには灯台を見に男木島に行こうかなと思っていたが、識ルート終わったくらいには自分で島に行かないとこのゲームは完結しないなと考えるようになった。
引っかかるだけ引っかかって回収されなかったなーと思うのはまたしても蒼の「空門だけど、識らないわ」というセリフ。
RBで意味深なことを言いまくってエロから脱却し株を上げようとしている……?
これは多分、過去の空門の巫女もイタコやったり蝶から知識を得たりしていて、過去を司る空門家、未来を司る鳴瀬家みたいな役割が昔あったんじゃないかなあと思った。
識はそれを知っていて、蒼は昔そうだったことは聞いていて、こういうやり取りになったのかなと。ここで対比を見つけられたのはちょっと嬉しい。
神山家は……なんか神社とか実務の部分を司ってるんじゃないでしょうか(適当)。
プレイ順について。静久ルートが紬ルートの対になっているように、識ルートは無印ヒロイン4人のコラージュになっていることに気付いたのはしろはルートのプレイ後だった。
祖先の話が出ちゃうからしろはの事情について察せてしまうので、本当は識が先のプレイ順は良くないんかなあと思わないでもない。
もしくは識を思いっきり前半に持ってきて忘れてからしろはをやるか。
あんま関係ない私情だけどうみちゃんが登場するなら鷹原さんモードであってほしいので、内容に反して識ルートを後半に置きたくない気持ちもある。ままならない。
島の伝承部分の他にも、女の子を助けるために犠牲になる(しろは)、羽依里が識を追いかける立場になる(蒼)、「君が泣いていても、僕は笑って側にいる」(静久)、記憶喪失(鴎)などシナリオの情緒的な部分で各ヒロインと同じテーマが繰り返されているのはちょっとやりすぎかなと思ってしまった。
初見時にはしろはルートとの対応しか気付いてなかったけど。加藤のご先祖様と堀田ちゃんの役回り、自分に責任を感じるところ、ぼっち=隠=鬼、etc…。
救いのなさも全ヒロインのなかでトップクラスな気がしてて、早々にお守りの効力は使い切ってしまうわ、Cパートはないわで散々だった。
いや、識本人は報われたと言っているし、エンディングの描写を見る限りPocket後のあそこが実質的なCパートなんだろうなという気はするけど、やはりそれでも物足りない。
劇中で羽依里くんも「皆の為に頑張るのに報われないなんてそんなのあんまりじゃないか?」と言っている。本当にそう。
ところでこれはALKAの絵本の蝶の話にも言えるかもしれないんだけど、うみちゃんは別にみんなの為ではないんだよな……。この辺はちょっとよくわかっていない。
島から人が消えるシーンもタイムトラベルものとしてちょっとありきたりかなと思ったけど、再読してみるとPocketの展開上時空改変の失敗例をここで見せておく必要があったのかなとは思った。
ところで改変の影響で人々が消えるのと神隠しって現象としてほぼ同じなことに今書いていて気付いた。
なんか考えれば考えるほど全ての不思議現象が「島と蝶の時空がガバガバだからです」で説明できてしまいそうで、それはちょっといやかも。
ずっと文句しか言っていないけどそれはその分感動させられたからで、例えば神隠しの空間(適当呼称)のシーンでは、静久ルートで選択肢があったこと・ツムギが迷って囚われ続けているところなんかを見てきているので、何も選択肢無く手をつないだのは彼女の決意を感じられて余計にグッときた。
ころころ表情変わる感じや制服着たときの後輩ぶり、それと線香花火とかサザエご飯のシーンで見せるギャップ、……。
個別BGMの「Run Red Run」も他の折戸伸治作曲のものと同じでBGM然としすぎていて正直他とごっちゃにならなくもないんだけど、鬼ごっこしてるシーンとか思い返されてちょっと泣きそうになる。
鴎
春の岬旅のをはりの鴎どり
浮きつつ遠くなりにけるかも——三好達治「春の岬」
識と二連続でやったの冷静に考えて厳しすぎないか?
蒼、識と同じなんだけど種類の違う虚しさというか、スタートのマイナスが大きすぎるというか。
個別BGMの「Adventure for Black」、後ろからスーツケースに乗った鴎が名前呼んでくるイントロで好き(?)。
あと洞窟専用BGMの「二人の冒険」も印象深い。どんまる曲が好きなのかもしれない。
あとミディアンシャーロットの「with」。古いドラムパターンとメロディーが癖になる。
この辺りからミスリードが多すぎないか?と感じるようになってきた気がする。識についても最初の方は一周回って本当に鬼なんじゃないかとか考えてたし。
鴎については幼馴染なのか(羽依里=タカなのか)とか、本当にスーツケースが本体なのかとか、考えることが多すぎてちょっとのめり込めなかったところはある。
ただ本を読むことで同じ冒険の記憶を共有していたっていう最終的な解決自体はすごい好み。
本編中では「本の思い出=フィクションを現実の思い出に」という言説が多かったんだけど、個人的には夏休みの冒険の思い出がこういう形=読書経験であったっていいし、読んでいる自分も一緒に冒険をしたと感じたっていいと思っている。
ていうか改めて書いてみると羽依里が幼馴染なのもスーツケース云々も両方本当と言って差し支えないのはすごい。
鴎の蝶もスーツケースを依り代にしていた節があるし。物と記憶の結びつきは明確に強調されているなと思った。トンボ玉、ぬいぐるみ、お守り、紙飛行機……。
あとは前半の冒険部分は比較的楽しく読めたけど、後半鴎の正体がわかってからの部分がどう着地するかわからないままずっと暗かったのもつらいところ。
ここでも羽依里くんは相当頑張ってると思うのだけど、真実を告げられてからの脱力ぶりとかが本当に険しい。
Cパートも、羽依里くんが自分の人生を生きた後にその旅の思い出を鴎と共有する、とかそういう解釈なのかなと思っていたら由来不明の謎の手紙があるし……。
全てハッピーエンドにしろとは言わないけど全て納得させてはほしいとは思うかな。
解釈の余地があるといえば聞こえはいいのかもしれないけど、明確な矛盾の提示で終わられるのはちょっと違う。全然まとまらないけどそんなことを考えながら読み終えた。
シナリオのテーマとして謎解きみたいなのは軸にあった気がするので最後に投げかけて終わるのはわからんでもないけど。ここに関してはPocketを読み直したら多少は納得度が上がったのでそちらで書く。
鴎については明確にイチャラブ要素が少ないのも興味深かった。
羽依里的には初恋の人とも描写されてるしラッキースケベもキスもあったんだけど、全部読んだ後に残ったのはこの夏一緒に冒険した親友みたいな印象だった。
別にイチャラブを増やせとは言わないけど、前半部分の本の描写を減らしてもっと鴎とのやり取りを見たかったというのが正直な感想になる。大事なのはわかるんだけど……。
期待についての解釈。「でもさ、そもそも期待してもらえるのはすごいね」「それだけに、期待を裏切るのはつらいね」というセリフは自分には刺さった。
なので初見時にはスルーしてしまったんだけど、この後鴎が何に期待していたのか聞かれて少し言い淀む場面がある。
そこでは「海賊船があって皆に会えること」と答えているが、鴎の記憶が本と混ざっていることを考えると、本当は病が治って自分の手で海賊船を完成させることを期待していて、その焦がれるような思いと裏切られたときのつらさだけは覚えていたんじゃないかなと思う。
ここだけ少し羽依里と会話が噛み合ってないのも納得できるし、書いてて悲しくなってきた。
シナリオ全体通して一番共感したのは次のセリフ。
鴎「面白い本を読んだら、その世界がずっと続いて欲しいって思うでしょう」
鴎「本の中の人物とずっと一緒にいたいって思うでしょう」
鴎「私はただ終わらせたくなかっただけ」
自分も終わらせたくないがために今この文章を書いている。
しろは
ひかりは水のほとりにしづみたり
ともよ ひそかにみどりぐむ
ときなし草はあはれ深ければ
そのしろき指もふれたまふな——室生犀星「時無草」
満を持してのメインヒロイン。
正直ここまで重めの結末が多かったので、しろはルートが共通から地続きのテンションなのはすごい安心した。少年団の面々が登場してからは特にそう。
単純にたくさんワチャワチャが見れるだけの選択肢とかゲーム性のある選択肢があるのも好き。ただ屋台イベントでCG1枚回収できなかったのはちょっと恨んでる。
あとは良一妹を始めサブキャラ総出演って感じなのも賑やかでいい(今思うと堀田ちゃんのカモフラージュっぽい感じはあるけど……)。
堀田ちゃん出てきたときは無邪気に可愛いねとか言っていたけど、行方不明になったあたりで識ルートのことを思い出し、その役割に気付いて愕然とした。
余りに人の心がない。堀田ちゃんと島の少女Cのアニメでの活躍を楽しみにしています。
シナリオ部分について、予知とか猪とか出てきた辺りで伝奇か!?ってなって黄昏のシンセミア思い出した。意外とそんなことなかった。
時の編み人さんも結局ここでしか出てこなかったし。アイツのせいでせっかくのハッピーエンドに水差された感が凄かったので帰ってほしい。
あとは運命とか「全て繋がっている」なんてセリフが多く出てくるけど、意外とALKA、Pocketではそんな感じの言及はないように思う。
これ以降のシナリオを読み解くためのヒントって感じなのかな。自分はわからないけどKey過去作品への目配せとかかもしれない。
さて、他のルートでのしろはを散々見てきているので、最初のキャラ紹介よりもずっと表情豊かでおもしれー女ってことはわかっていたんだけど、ルートに入るとなおさら可愛いですね。
声の演技が上手くて、そちらの表情がかなり多彩という印象。料理好きとかもポイント高い。
当たり前なんだけど二周目以降はうみちゃんの反応をどうしても意識してしまう。
肝試しで狸の話をした時のしろはと、共通でチュパカブラの話をした時のうみちゃんのそれぞれのリアクションとか、蝶番の契りの話をした時のうみちゃんとか……。
こればっかりは一周目お兄ちゃん、二周目鷹原さんモードで再プレイしないと味わえない感動だった。
あとは鷹原さんモードでうみちゃんがさりげなくバタフライエフェクトと言ったんだけど、プレイ後数時間経ってお風呂に入ってるときにバタフライエフェクト?って思わず復唱してしまった。
多分記憶や思いが蝶の形であることの大きな理由がこれで、鴎ルートBADやALKAで関わった人の記憶が無くなっているのはそういう蝶の羽ばたきのような限定的な影響しか与えられないことを示唆している。こんなんもっと早くに気付くべきだった。
「White Loneliness」はザ・しろはって感じで個別BGMの中で一二を争うくらい好き。拍子感の無さに浜辺で一人でいる姿が思い起こされる。
ウミホタルのシーンでアレンジの「夏に君を待ちながら」が流れるのも最高。これRB追加演出ならこれだけの為に買う価値がある。
ALKA
このよのなかのほかにもうひとつ
べつのよのなかがあってそこからてんしはきた
なんまんねんもかかってとぼとぼと
おかげですっかりやせこけた
ほそいほそいせんにまでつばさはにんげんからのおくりもの
しかたなくてんしはとぶ
かげろうみたいによろこびのかすかなあかりをもとめて
——谷川俊太郎「天使の危機Ⅰ」
しろはルートと連続になってしまったのと、ここまでかなり入念に仄めかしがされていたのもあって、突入時のモノローグの時点で大体誰の話になるかは察しがついてしまった。
というかここに至るまでにうみちゃんのチャーハンを食べることができなくなってたのが本当にダメージ受けた。共通は毎回ほとんど飛ばさずにやっていたので……。
まずもう導入の「Sea, Your Memory」の時点で泣ける。これまでと明確に違う最後の”夏”。
2日目の「もう8時ですよ」で泣きすぎて中断した。あとうみちゃんがパン焼いてくれてるところとか。
今気付いたけど、時折うみちゃん視点の記憶を夢に見るのは別に並行世界のへじゃぷとかではなく、ゲーム進行で幼くなっていったのと同様に記憶が零れ落ちているからなのかな。
読み返すとほとんど自明なんだけど初見時はそれどころじゃない感じがある。
ヒロインが全員登場してくれたり、これまで未回収のイベントをやってくれるのは期待通りで嬉しかった。
特に共通でも存在だけずっと言及されていたラジオ体操への参加は待ってましたという気持ち。直前のしろはルートだと紬・静久は出番がなかったので。
鴎が絵本で、紬が歌で協力してくれるのもグッときた。
特に鴎について、子供の為に本を残すのはまさに鴎の母がしてくれたことで、世代を超えて思いが受け継がれることへの感動があった。親ではなく愛人だったけど。
さて、しろはルートで描かれたのは恋人としての魅力だったけど、ALKAでは母親としてのしろはの魅力が前面に出ている。なんか描写多くてズルくない!?
うみちゃんあやしているところに僕もあやしてくださいって言ってゴミみたいな目で見られる羽依里くんが見たいです(夢小説)。
シナリオについて。振り返ってみると一応しろはルートの時の編み人云々の他にもループものであることを示唆する伏線自体はあった。
次の夏も同じように蝶を探す羽依里、灯台の無限に続く階段、洞窟に辿り着けない線路の円環、「いつでも帰ることができる。あの夏に」。あとはアルカテイルの歌詞とかそのまんま。
とはいえループものとわかって最初は古手梨花じゃんって思ったしALKA終わるころには皆殺し編じゃん、まで言った。いや、別に悪意は存在していないから全然別物なんだけど。。。
(しばらく不満点のパートです)読後感は良くない。
花火のシーンまでは「どうしてそんなことするの?」と言いながらもボロ泣きしながら読めていたが、終盤のループ部分とかはただただ悲惨だったし、「絵本の最後のページ」みたいな既存の伏線については保留したままなのに新しい謎も提示されるしでモヤモヤしたままだった。
これで次のシナリオが大団円じゃなかったら許さんぞという気持ち。
ラストシーンに関しても、精神時間遡行能力を持った人たち=時の編み人なのかな? と思ったが、あの蝶たちは善意でやってるはずなので羽依里を突き放すようなこと言わないと思うんですよね。
じゃあ時の編み人誰なんだよって話なんだけど。口ぶりからして”運命”とか”世界の修正力”とか、メタ的にはシナリオライターとか、そういう言われ方をする奴っぽさあるので蝶アンチ改め時の編み人アンチを名乗っていきたいと思います。
これは再読して気付いた小さいところなんだけど、プロローグ部分でうみちゃんにハッピーセット頼ませるの本当に性格悪いですねとなった。
しろはルートがアプリ版だと無料でプレイできることを考えると、謎を残したりハッピーエンドで満足させないのはそういうマーケティングの一種なのかなあと思わないでもない。
うみちゃんが”夏”を繰り返すきっかけになった未来の羽依里の問題については結局回収されなかったけど、当のうみちゃんが許しているしあまり気にする必要もないかなという気持ち。
羽依里自身も「見てしまった未来を結果として受け取らなければ良いと思うんだ」と言っているように、起きてしまった過去も単なるきっかけに過ぎない。
閉じたループがあるときに、そこに入る前に起きた出来事ってあまり関係ない気がするんですよね。本当に些細なすれ違いがあっただけ。
うみちゃんの事情を知った上で各ヒロインのCパートを見ると、それはうみちゃんが言いたかった言葉、言ってもらいたかった言葉であることがわかって胸が詰まる。
「おはよう」「おかえりなさい」と普通の家族の間で交わされるには当たり前すぎる言葉になってるんですよね。
鴎から言われたとすると何だろう、死後の世界で再会説なら「お疲れさま」とかなのかなあ……。「おいでなすったな」とか言ってきそう。
ちなみに最後のうみちゃんの”夏”の回想で出てくる順番は蒼→のみき→紬→静久→鴎→識→しろはでしたね。
これが公式推奨順って訳じゃないと思うけど、自分のプレイ順とかなり近くて一瞬プレイ履歴で変化する部分なのかと思ってちょっとびっくりした。
BGMはちょっとTwinkle of AlcorとSea, You Nextがずば抜けてる。夜奏花とかもいいんだけどぐちゃぐちゃに泣いてたので印象に残ってない。
Pocket前半部分(過去世界)
言いたいことが無限にある。
まず自分は名前が呼ばれるシーンのその時まで七海=羽依里だと思っていた。
初見時にもメモっていた状況証拠は以下のような感じ。うみちゃんと羽依里両方に当てはまる証拠は無限に出てくるので割愛。
- Pocket開始時モノローグ、「ただ、どこかに行きたくて」など
- しろはルートでも手を伸ばしていたしこの文言もどこかで出てきてたはず
- 幼しろはへの国語の授業(蒼ルート? 島の少年とのシーンのリフレイン)
- 海への恐怖
- 「七つの海を越えて」
- 物語的にも完全に羽依里の記憶にしかないはず。ここだけだと鴎という可能性もあるが、しろはを救いに時間遡行する必然性は無い。
- 「ご飯を作ってあげたい」(ALKAの羽依里の行動のリフレイン)
- ザリガニが好む匂い
- これについてはALKAでうみちゃんについても言及されていたのを見逃してた。当然遺伝しているだろうけど。。。
- 玄武について知っている
- しろはルートでの羽依里と鏡子さんとのやりとり「昔会ったことがあるんだよ」→七海と会ったことをカウントしているのかと早合点した
- 「思い出が待っている」
- 初見時はプロローグの「まだ見ぬ未来の時間を懐かしむような感覚」についての見事な回収だと思ってた
一応「同じCV花澤香菜のナレーション部分は羽依里視点ではなさそうだった」「ALKAラストでしろはから貰ったであろう羽を持っている」「プールのシーンの回想が一人称」みたいな逆の証拠もあるけど、うみちゃんと羽依里の二択で、主人公のバイアスがかかっている以上これを勘違いしないのは無理だと思う。
制作側が騙しに来ているのが明確にわかる部分があって、迷い橘の空間での「ありがとう、おばーちゃん」というセリフ。
加藤のおばあちゃん-羽依里という関係は明確に劇中に出ていて連想されやすいが、鳴瀬瞳-鷹原羽未の関係はちょっと考えないと出てこない。
もちろん劇中で明確に能力を持っている描写がこの時点までにされたのは瞳の方なんだけど、にしてもズルすぎる。
この作品で一番引っかかっているミスリードがここで、騙す意味はあったのか? というのがずっと残っている。
確かに「おばーちゃん」の意図が分かったときのカタルシスはあったが、それより衝撃でその後のしろはとうみちゃんの会話が全然入ってこなかった。
捻った結果「うみちゃんが頑張って時間遡行していました→結局ALKAと同じ流れでは?」「羽依里の主人公度(自ら行動して何かを成し遂げたという感覚)が低い」という印象になってしまったのも良くないポイント。
七海を編み上げた記憶の中に羽依里も入っているということで一応両方の感想に反論はできる。
各ヒロインのルートでは羽依里くんは十分仕事をしてきたので、それが巡り巡って過去のしろはを救っているのだと。
髪の色が羽依里寄りなのはミスリードというよりはそういう設定由来な気はする。
再読してみると、しろはがうみちゃんを思い出すシーンで幼しろはの肩にとまった蝶が羽依里だったのではないかなと思った。
明示されておらずわかりにくいし直前に「おばーちゃん」の蝶が登場しているので流しやすいけど。
総じて、前半部分は七海=うみちゃんと知った上で落ち着いて読むと納得はできるしちゃんと泣けるので、なおさら七海の正体を隠したのは何だったんだ……という感想に落ち着いてしまう。
あと、騙しとは関係なく気になった点。以下のようにプロローグの印象的な文章があるのだけど、
いつか。
この瞬間を、俺は思い出す。
それはとても、不思議な予感だった。
過去を懐かしむように。
まだ見ぬ未来の時間を懐かしむような感覚。
これについてはもっといい感じに羽依里自身が回収して欲しかったかなあという気持ち。
この文章の美しさに比べると、Pocketでの「実際に未来の思い出を見せる」という解決方法はちょっと乱暴じゃないかなと思わないでもない。
一応Pocket後半でももう一度触れられるが、それはどちらかというと改変前世界のへじゃぷという感じで「まだ見ぬ未来の時間を懐かしむような感覚」について説明された訳ではないので。
さて、Pocketの初見開始時に自分が記憶している伏線は「時の編み人」「私の羽」「絵本の最後のページ」の3つだった。
前半部分の読後感が悪いと感じたのにはこれらの回収の仕方も影響している。
時の編み人はそもそも出てこないし(幼しろはに力の存在を教えている奴がそう? )、羽はうみちゃんがこの時代に来るために使っていると考えられる。
絵本の最後のページに至ってはEDムービーでさらっと回収されている。絵本の最後のページがうみちゃんを救うんだと思いながら読んでたので、ムービーで絵本流れ始めたときはマジで絶望して泣いた。
後半部分(改変世界)
ここは好き。前半に比べて持ち直したなあという感じだし無限に味する。
ALKAのラストから続くもやもや感が大分払拭された感じはあった。
まず「ポケット」のタイトル回収から。
自分はALKAまでやったあたりの印象で「時空が隔離された鳥白島のこと(エアポケットのポケットと同義)」「ループが完結する=袋小路」とかそんなことを考えてた。
前半終わって「ポケットをふくらませて」を聞いた段階では「記憶がこぼれ落ちるからポケットなのか? そんな残酷な……」となっていたけど鏡子さんががっつり説明してくれましたね。
記憶が物として集まって、忘れられてしまう場所。一番最初の解釈が当たらずも遠からずってところでしょうか。
記憶の還る場所である鳥白島との対比になっている。
羽依里くんはこの蔵を「時の地図」と呼ぶんだけど、この場所を整理することでうみちゃんと出会えたことに対する納得いく理由が、自分の中では正直まだ見つかっていない。
前半のエンディングでうみちゃんの蝶が蔵に辿り着いているのでこの場所にいることはわかるけれど。
ただここでALKAルートの紙飛行機が出てくるのは当たり前で、この世界では物は時空を超えて想いを伝えるんですよね。
識ルートでのお守りもそうだし、鴎ルートの手紙もここまで来ると納得できる。
鏡子さんが説明したように、蝶も夏の中であれば時空を超えられるので、鴎にそれができないと考える理由は無い。
鏡子さん自身についてもかなり種明かしがありましたね。
あの”夏”でもこの夏でも羽依里を島に呼ぶのは瞳さんからの働きかけがあったのだと思われる。
プレイ後に公式サイトのSS見たらめちゃくちゃ露骨に書かれてて若干興ざめしたのは秘密。
改変世界について。最初はさびしさやなくなってしまったことが強調されていたけど、だんだん良い面を描写してくれたのは良かった。
うみちゃんはいなくなったけど虹が架かっている世界。
藍が起きているのはもちろん、鴎が生きてるだけで本当に救われた。
うみちゃんの改変は10年程前のしろはについてのみ起きているはずなんだけど、様々な物事が良い方向に変わっているのは、やはりバタフライエフェクトで意図したものより大きな変化が生まれているということなんだろうか。
ここで気になるのは紬で、ぬいぐるみを抱いているのに性格や口調は”あの紬”なんですよね。
ぬいぐるみとだけ書かれていて熊とかテディベアみたいな描写が一切ないのもまたいやらしい。
仮に”あの紬”そのままでぬいぐるみは別のもの(ナガラさんとか)だったとすると、改変世界の「うみちゃん以外は改変前より良くなっている」という原則に沿わなくなってしまう。
「“あの紬”そのままだけど夏の終わりにかえる必要がない」とかだと理想的ではあるけど、辻褄を合わせるための余計な仮定が大量に必要になりそう。
自分の中では、改変の結果ツムギは灯台守と結ばれることができ、子孫として紬が生まれてきた(ぬいぐるみはツムギから受け継いだもの)、という解釈を推しています。
そうなると改変後の紬と”あの紬”は同一なのか、同時に別々に存在しているのかとか色々気になってしまうけど、たとえ後者でも代々大事にされているので幸せなんだろうなあとは思った。
紬だけ明確に「改変前の世界から想像される、こうだったらよかったのにという世界」からは少しズレているのでちょっとモヤモヤポイントではある(この論点だけで長々書いていることからわかる通り、この記事のモチベーションの大部分はモヤモヤを書き出して自分の中で納得をするためです)。
でもそもそも改変世界自体がうみちゃん・しろはが幸せになるためのもの(=個別ルートの延長線上)だと思っているので、“あの紬”にとってのベストエンドが改変前の紬ルートであっても何も問題はないはず。グランドルートだから正史という訳ではない。
羽依里くんの主人公としての仕事ぶりも100点。
ずっと忘れていたけど、最後はちゃんと踏み出してくれた。歩き続ける事でしか届かないもの。
船降りようとする辺りで「行けーーー!!!」って絶叫してた気がする。応援上映かな?
この世界でもしろはと結ばれる可能性があって、もしかしたらその子供がうみちゃんなのかも、という希望を抱かせる終わり方ではあった。
Cパート
アルカテイル後のパート。よかった!!!!
識の声が聞こえた瞬間べしょべしょに泣いた。
プレイ後、識がいなかったらどうなるんだと思って無印版やってみたらパート自体全く影も形もなくてまた泣いて、落ち着いてからちょっと怒りが湧いてきた。
Pocket後半パートまででも救いがあるとは言ったけど報われたとは言っていない。
この感想を書きながらずっと自分が思っていたことだけど、「感動」や「泣きゲー」を売りにして物語を書き、その中で登場人物たちを苦しめるなら、その分彼ら・彼女らを幸せにする責任が書き手にはある。
そういう意味でこのCパートはなくてはならないものだと思う。
蒼ルートを最初にプレイした時から何となくは感じていたんだけど、ここまで書いてきてようやく言語化できたかなという気持ち。
ところで無印だと絵本の最後のページの内容自体がどこにも語られていないっぽい? じゃあ完全版商法なのでは……?
識について。
初見時はうみちゃんが過去に向かって飛び続けた結果、識の時代にまで到達して出会うことができたのかなあとか妄想していた。
読み返してみると別に「過去に向かって」飛んでいたという明確な描写は無いんだけど、識と会って振り返ると未来があったことからそれまで向いていたのは過去方向、とこじつけることはできる。
識ルートのエンディングで最後に光=識が青い空間に辿り着くのも気付けてなかった。
初見時は正直識ルートのCパートがあるかどうかで気が気じゃなかったのはある。
出てきてくれて嬉しいし、うみちゃんを導いてくれたのは本当にすごいことなんだけど、冷静になるとじゃあ識自身はこっからどうやって幸せになるんだよという気持ちにはなる。
ここから先は流石に二次創作の世界なのかなあ。
アスタロアの歌詞は識視点のものという印象があったけど、このパートの前半ではきちんとうみちゃんも回収してますね。
以下の部分。
「誰もが忘れたとしても、私だけは忘れない」
「この夏の青さだけが残る世界で」
このCパートではアルカテイルの歌詞引用が印象的なんだけど、こうしてみるとアスタロアもいいですね。
アスタロアを2人の歌詞として解釈し直してみるのも面白そう。
色々書いてるけど、これこそが羽依里が描き加えた、プレイヤーである自分が本当に望んでいた最後の1ページだった。
次の夏を迎えるのが楽しみになる良いゲームだった。
どこまであるきつづければよかったのか
しんだあとがうまれるまえと
まあるくわになってつながっているもうだまっていてもいい
いくらはなしても
どんなにうたっても
さびしさはきえなかったけれどよろこびもまたきえさりはしなかった
——谷川俊太郎「鈴をつけた天使」
補遺
全然まとまってないし記事が締まらんけど、せっかく考えたり調べたりしたので書きなぐっておくコーナーです。
ゲームをプレイして得られる1段階目の解釈や感想ではなく、そこからの推論や妄想を含む内容、つまり巷では”考察”と言われてしまう部分。
主題歌の曲名について
ざっと既存の考察眺めた感じ新規性はありそうだったのでちょっと書いてみます。
アルカテイル
ゲーム内のルート名だとALKA TALEと表記されるのだけど、ALKAというスペルに見覚えがなかったので調べてみた。
とっかかりになったのはRB主題歌のアスタロアとBGMのTwinkle of Aster。
これとBGM同士の対応(Twinkle of AsterとTwinkle of Alcor)から、指している対象としてアスタ=Asterとアルカ=ALKA=Alcorがわかる。
Alcor(アルコル)はおおぐま座の星の名前で、曲名(瞬き)とも合致している。
アルコルの語源ははっきりしない(この辺を見てね)が、儚いものみたいな意味があるらしい。この辺りはその辺に転がっている考察記事でも見つかると思う。
音から連想されるのはギリシア語のアルカディア(Arcadia, Arkadia)だが、スペルも合わないし意味も「理想郷」なので微妙に通らない気がする。
鳥白島がそう見えなくもないのはわかるんだけど。
スペルだけで引くと面白いのは古ノルド語のAlkaで、英語にするとAuk、意味はウミスズメ。ちょっとまんますぎるか……?
うみちゃんは蝶のイメージが強いけど、名前に羽も入っているので悪くない線な気はする。
アスタロア
識ルートの感想でも若干触れたように、テイルとロアが対応しているならロア=lore(伝承)だと思う。
Asterについては、Twinkle of Asterの他にも夏の紫苑という曲があるので植物の紫苑のことは意識されていると思ってよさそう。識の野草に詳しい設定もここから来てるんだろうか。
紫苑の別名として鬼醜草(おにのしこぐさ)というものもあり、字面が酷いけどこれもまんま。花言葉は「あなたを忘れない」。
自分も混同していたんだけど、逆の「私を忘れないで」が花言葉なのはワスレナグサの方で、植物的にも別物。
紫苑については掘り下げるともう一本記事ができそうなのでここでは割愛しておきます。時間が出来たら書く。
語源まで考えるとAsterも星のことを指している。アステロイド(Asteroid)とかのAsterですね。ただ作中で全然そんなモチーフ出てこないからちょっと謎ではある。
一応「羽のゆりかご」に「星の消えた海に沈んでゆく」という歌詞は出てくる。
曲が流れるタイミング的に、海は記憶時間遡行能力者が見る光景のことなので、ここでの星は彼ら・彼女らから零れ落ちた記憶=眩しさのことだと思うとしっくりくる。
うみと識で共通する眩しさで、“星”という言葉で表せそうなものは……花火とかだろうか。
アルカにならって古ノルド語を引くと、Ástarで「愛の」という意味。これ偶然っぽいけどすごくないですか?
愛の伝承と言うと作中で言えば白羽の伝承とかが思い当たるし、もっと言えば識のシナリオ自体がそうである気もする。
紬ルートについて
改変後の世界の紬について疑問を抱いてしまったため、彼女にとって紬ルートこそが一番幸せだったと主張する必要が出てきてしまった。ので書く。
何故かえらなければならなかったのか
そもそもの話ではあるけど、紬ルートCパートの後のことを考える前に、何故夏が終わる頃にかえらなければならなかったのかを考えたい。
紬はうみちゃんと異なり長期間に渡って(2世代分=50年くらい?)実体化している。
そのため夏の間しかいられない(お盆の鳥白島周辺で生死の境界が揺らいでいる説)という訳ではなさそう。
というかこれは作中で夏しか描かれないことによる誤謬かもしれなくて、実は鳥白島では年がら年中蝶が飛び交っている可能性はある。
蒼が明言したのは「夏の間しか蝶を導くことはできない」という点だけ。
シナリオからほぼ明らかな物語的理由は「ツムギを知っている人がいなくなったから」だけど、メカニズムとしては謎。
公式サイトで公開されているSSでもはっきりそう書かれてしまっているのでこちらで考えるしかない。
例えば以下のような感じか。
- 紬が存在するためにはツムギを知っている人が必要だから(1. 存在条件の不満足)
- 紬がツムギを覚えていてもらう必要がなくなったから(2. 存在理由の喪失)
- 紬がツムギの元にかえりたいから(3. 不在願望)
3はCパートでも述べられている通り、本望ではあったはず。特に2が達成されたならなおさら。
ただこの辺をちゃんと原文と照らし合わせようとすると結構煙に巻かれる感じがするんですよね。
いくつか引用します。
A: 8/8 夜の灯台のシーン
紬「どうしても、帰らなければなりません」
紬「大切なお友達との約束もあります」
B: 8/21 日記のシーン
『みんな、ツムギちゃんをわすれないでって、そう思った。』
『だから、みんなが、ツムギちゃんを忘れないようにしよう。』
『わたしが、がんばらないと。』
『ツムギちゃんがこれを書いていたから、わたしもかこう。』
C: 8/22 加藤家のシーン
紬「役目が終わったので、ただかえるだけでしたが……」
紬「ハイリさんが見つけてくれたおかげで、わたしはツムギちゃんの元にかえることが出来そうです」
D: 8/31
紬「ツムギちゃんを知っている人は、いなくなってしまいました……」
紬「やることが……無くなってしまいました」
紬「わたしも……かえるはずでした」
紬「でも、その気配が無くて……わたしはかえれないままでした」
まずDが1と2をやんわり否定していて、紬の役目に関わらず紬はある程度の期間存在することができるということがわかる。
Cについても、別の事情で「かえらなければならない」ことがわかった上で、それならばツムギの元へかえりたい、と読み取れるので3の否定になっていると考えられる。
ただBを読むと紬の実体化の動機が明らかに2を示唆している。
Aも、約束の内容がわからない。Bと同じ内容を指している可能性もあるが、日記を書きながら1人でした決意を「約束」と表現するかというと微妙なところだと思う。こじつけるとツムギの元にかえるという約束(3の証拠)にもとれる。
あと本編では羽依里がツムギと会ったことを覚えているので、実は1だけでかえらなければならないということはないと思われる。
ここできちんと押さえたいのは、Dで言及されたかえれないままの状態と、羽依里との初対面時(7/27「夏が終わったらかえらなければなりません」)の間、6月から7月にかけてかえらなければならないことを悟ったということ。
この時期にオフスクリーンで何が起きたかを考えていたら、8/31にちゃんと書かれていた。
紬「でも……ツムギちゃんの為だったのに」
紬「わたし自身、シズクの事を……大好きになってました」
紬「わたしにも、そういうのがあるんだって……そうわかって」
紬「それで、本当にわたしのやりたいことを探す様になりました」
結論を書きます。静久と出会ったことで、
- 紬がツムギの代わりではなく紬になったから(4. 存在理由の獲得)
かえらなければならなくなった、と自分は考えます。
この自覚が芽生えて初めて2を実感したんじゃないかなと。この皮肉っぽさはここのシナリオライターが好きそうな感じもする。
「わたしは、わたしを探している」というのも、紬の正体を了解してからは紬がツムギを探しているとしか捉えられない文章なんだけど、さらにそれをもう一度転回させて。
あの夏、確かに羽依里と静久と紬は、紬を探していたのだと、そう思います。
これにはオチがあって、さっき貼った公式サイトのSSには「加藤のおばーちゃん亡くなる→その日の夜、夢を見てかえらなければならないことを悟る→静久と出会う→羽依里と出会う」という時系列が明言されています。
……自分の解釈の方が良いと思うんで今からでもこっちに変えませんか?
紬は幸せになれるのかどうか
実はここからが本題です。Cパートで紬が戻ってきた後に幸せになれるのかどうか。
いや、書いているうちに完全にこっちが蛇足になったけど。
元々不安定な状態で実体化していた紬のことなので、戻ってきたとしても本当に一緒にいられるのかが気になってしまう。
ここまで書いたことを元にして一緒にいられる物語的理由を考えると、「紬はツムギの代わりになるために実体化したので一度かえらなければならなかったが、ツムギに送り出されることで紬として実体化したのでもう大丈夫」とかそんなところではないかなと。
さて、この作品は物語的理由はちゃんと語ってくれるんだけど、具体的なメカニズムとかトリックはぼかしたままにされることが多い。
自分はそれでは納得できないタイプなので、紬が再度実体化してずっと一緒にいられるためのメカニズムも考えていくことにする。
前のパートで書いた「かえらなければならない理由」の逆を考えてやればよさそう。
紬として送り出された新しい紬の存在条件として、一番適当そうな1をベースに書き下すとすると「紬が存在するためには紬を知っている人が必要」となるはず。
もちろん羽依里と静久がいる、というだけでこれを満たされたことにしてしまってもいいんだけどもう少し強度が欲しい。
紬ルートの特色として、少年団の面々が多く登場する点があるのは個別ルート感想に書いた通り。そのためあの夏休みに紬と関わり、紬を知っている人、思い出を共有した人は2人以外にも多くいる。
さらに、紬が戻ってくるときに導かれたのは歌。羽依里が島の人に聞いて回り、静久が楽譜を見つけた歌が、島の人たちやラジオ体操に来ていた女の子らに広まって、夏の思い出に寄り添っている。全員の中に紬がいて、もう紬が忘れられることはない。
そんなことを思いました(投げっぱなしポエムエンド)。